ゼラチンにかける愛
幼少のみぎり、ゼラチンというものにはまっていた。
きっかけは箱根旅行。
小学生だった私は、箱根のホテルのディナーで、初めてフランス料理というものに触れた。
今まで見たこともない料理の数々。
そして、一皿食べ終わる頃を見計らって運ばれる次の皿。
小学生ながら、うっかり手際のよい給仕さんに惚れそうになったものだった。
そこで更に真新しいものに出会った。
コンソメのジュレである。
今でこそジュレというのが浸透したけれど、当時一般にはゼラチンで固めたものはゼリー以外に考えられなかった。
それが、エビや枝豆なんかを浮かべた美しいコンソメスープがゼリー状になって出てきたから驚いた。
この世にこんなに美しくって美味しいものがあろうかと思った。
それから帰って、すぐにコンソメジュレ研究を始めた。
たまねぎをあめ色に炒めて、コンソメスープを作る。
それを漉したものにゼラチンを溶かしいれて冷ます。
硬さ加減がなかなか難しくて、何度もやり直した。
その時の執念は、今考えてもなみなみではない。
何としてでも味の再現をしたかったのだろう。
それから試行錯誤を重ねて、思ったようなジュレを作った後、こんどはゼラチンを使ったもの作りたくて仕方なくなった。
オレンジジュースゼリー、ウメジュースゼリー、コーヒーゼリー。
立て続けに沢山作った。
よく家族が我慢してくれたものだ。
余談だが、コーヒーゼリーを作ったとき、沢山出来てしまって、丁度大皿一杯分できた。
それを味見してみたら美味しすぎて、半分食べてしまった。
ゼリーにするくらいなので濃い目につくったコーヒーは、小学生の私の胃袋を思う存分荒らしまわった。
それからしばらくは、コーヒーゼリーに見向きもしなかったのは言うまでもない。